どの日本語学校にも、若い常勤講師とベテランの非常勤講師との「溝」という問題があります。
ジェネレーションギャップという言葉があるように年齢による考え方の違いは当然あるもので、双方の不満は常に内在しています。
今回はその実情をお伝えします。
若い常勤講師からの不満
まずは、若い常勤講師が抱える非常勤講師への不満を挙げてみます。
ミスが多いのに態度が大きい!
連絡ノートを書き、出欠連絡を行ない、小テストを採点し、作文を添削し、次の人に引き継ぐことがあればその連絡をする。
年齢を重ねる中でどうしても避けられないものですが、すべきことがたくさんあると、一つ、二つと頭から抜け落ちることはあります。
「毎回のことなのにどうして忘れるかなぁ!?」
これが常勤講師の不満です。
しかし、そもそも授業とその準備のために頭も心も十二分に使っているので、正直なところ授業を終えたら疲労困憊。
出ない力を振り絞ってその後の作業に向かうということも多々あります。
よい授業をするために絶対に手を抜けない事項ですから必死です。授業だけで精一杯という現状があります。
新しい方法になじむのに時間がかかりすぎ!
これまでの豊富な経験の中で得た成功体験、そこから生まれた達成感や高揚感は、簡単に捨て去れるものではありません。
今まで自分のアイデアで作り上げてきた授業の形があり、その絶対的なスタイルというものは個々に確立しています。
今の学生のニーズに合った形というのはもちろん尊重されるべきですが、頭では理解していても、簡単に捨て去ることはできないのです。
新しいやり方に過去の自分のやり方を混ぜた結果、時間不足になる、ということはよくあります。
経験の多さがかえってマイナスになる典型的なケースです。
意見、言い過ぎじゃない?
カリキュラムについてや記述の採点方法についてなど、一つひとつのことに意見をしっかり伝えてきます。
あとでまとめて言うのでは忘れてしまいますから、気がついた時にすぐにでも言いたいのです。
学期が終わってからまとめて言ってほしいという常勤講師の意見は無視されます。
もちろん解決していきたい気持ちはあります。貴重な意見だと受け止める気持ちもあります。
しかし!なんといっても時間がない。
授業を持ち、学生の生活にまで責任を持ち、事務的な業務もこなす常勤講師の仕事量を考えれば、多少の不満や不具合くらいはその経験値と年齢ゆえの寛大さで許してもらいたいと思うのが本音です。
せめて学期が終わるまでは自分の心におさめておいてください、と思うときも正直あります。
ベテラン非常勤講師からの不満
次は、普段の会話の中でみられる非常勤講師の思いや不満を挙げてみましょう。
よい授業をする邪魔をしないでほしい!
「経験豊富ゆえに見えてしまう不足は個々で解決してほしい」、「起こった問題に対し場当たり的に対処することを許してほしい」という常勤講師の思いは伝わっています。忙しさも理解しています。
それでも抑えきれず攻撃してしまうのはどういうときか。それは非常勤講師にとって、スムーズによい授業ができなくなりそうなときです。
常勤講師と違い、非常勤講師は授業がすべてです。
準備の時間を十分かけてよい授業をしたいと思っています。
仕事全体で評価される常勤講師と、
授業のみで評価される非常勤講師の違いはここにあります。
だからこそ、授業のやりにくさに直結すること(例えば、小テストの作成ミスが多い、日によってカリキュラムのばらつきがあまりにひどい、など)への文句を伝えることに、躊躇はないでしょう。
だから言ったじゃない!
学生のニーズの変化から、テキストのコンセプトも少しずつ変わってきています。
若い常勤講師はそういった変化を取り入れていくことが学生のためだと信じています。
もちろんこれは間違いではないし、むしろ学生のためと考えればよいことだと思います。
しかし、実際にやってみると、やりにくさや不十分な点というのは必ず出てきます。
経験がある非常勤講師にはそれがやる前から見えています。
「だから言ったじゃない」と心の中で毒づきたくなるのも当たり前かもしれません。
ただ、すべてのやり方にはいいことも悪いことも抱き合わせで存在しています。
どこに重きを置くかによって、重きを置かなかったところが不十分になるのは、これもまた当然のこと。
マイナス面に目を向けすぎないことが大切です。
私たちをうまく使ってほしい!
年齢が上である非常勤講師から見れば、若い常勤講師は上に立つ者としての経験が不足していると感じています。
組織に所属する者としての振る舞いを理解しているからこそ、主張すべきことは主張する、任せるところは任せる。
この二つのバランスをうまく発揮してほしいのです。
そうでないと、途端に頼りないと感じてしまいます。
「尊敬できないよね」という言葉の裏には、「尊敬したい」という想いがあります。
会社組織では年上の部下は一人二人しかいないかもしれません。
またそこまでのポジションに抜擢されるということは一目置かれるべき実績があるのは事実でしょう。
しかし、日本語学校における常勤講師、非常勤講師は単に働く時間の違いだけで、経験や実績では非常勤講師の方が上である場合が多いです。
お互いにやりにくさを感じることは確かにあります。
まとめ
それぞれの立場からの思いを率直に書き連ねてみました。
普通の会社とは違う問題も含めて、それぞれの思いをこうした第三者の言葉から知る、発見する助けになれたら幸いです。
お互いの違いを挙げ連ねるより、同じ「日本語教師という仕事に惹かれた者」という共通点のもと、共通の志をもって進んでいけたらよいと考えています。