日本語の教科書から日本の社会が見える

日本語教師にとって、教科書はその中味をよく知り、吟味し、とことん付き合っていくべきものです。当然ながら、教える側が中味を熟知していない限り、よい授業はできないからです。自ずと軽く流し読むことができなくなり、語彙や微妙なニュアンスまでも詳しく分析するかのように読み進める内に、見えてくるものがあります。
ここでは、そんな発見のいくつかをご紹介します。

教科書の付録からみえること

いきなり付録からですみません。しかし、この変化に私は本当に驚きました。今までの慣例が破られてしまった!いいのか!そんな気持ちも起こりました。

それは教科書の後ろの付録にある新出語彙の意味説明のページを見たときのことです。授業前に知らない言葉の意味を調べてくることは予習として当然望まれることですが、毎回一から十まで調べなくても、付録に掲載されているものは利用してよいと思います。もちろん、付録に掲載のない語の意味がわからないことも多々ありますから、全部調べていたら大変です。文章全体の概要をつかむのは難しいので、それは授業中に理解するとして、語彙の意味くらいはささっと効率よく調べ、それが付録で賄えるのであればぜひ利用すべきだと考えます。

この新出語彙の意味説明ですが、学生の国の語で説明されています。まずは英語、次に中国語、その次に出てくる語は何だと思われますか。今までは韓国語でした。そのため、英語も中国語も韓国語もわからない国の学生は一からすべて調べるしかなく「不公平!」との文句も出ていたものです。「少数派だからしかたないね」と笑ってかわすしかありません。しかし平成27年に出版された教科書では、この3つの国で韓国語はなくなっていました。英語、中国語は変わらずですが、3つめの語がベトナム語になっていたのです!少しは漢字で苦労しているべトナム人の助けになるでしょうか。

それ以前から、文法説明がベトナム語でされるなど「ベトナム語版」が出ている教科書もありますが、多くの学生が使う教科書の中の語彙説明から韓国語がなくなる日が来るとは思いませんでした。英語が世界の共通語とはいえ、日本語学校に来る学生は昔から中国語圏が多く、次点が韓国というのが長い間の日本語学校での傾向でしたから。

実際の国別学生数はどうなっているか

日本語教育振興協会の調査・統計データを見てみます。平成25年からは学生数の国別内訳で1位の中国は変わりませんが、2位が韓国からベトナムに変わっています。そしてさらによく見ると、興味深い数字もみえてきます。少し詳しくお伝えします。

資料にある平成17年から平成22年までは、1~3位の国は不動です。1位が中国、2位が韓国、3位が台湾です。しかし平成23年と24年は、台湾でなくベトナムが3位になります。そして平成25年にはついにベトナムが2位になるのです。教科書の新出語彙の説明変更はこのときから検討され、準備が始まったのかもしれません。その後の順位の変化はありません。平成28年度も1位が中国、2位がベトナムになっています。

しかも興味深いことに、中国の次が韓国だったときの数字を見るとその人数差は大きく、平成22年度を例にとると、中国からの学生が67%を占め、韓国の学生は15%です。それ以外の国の学生は当然5%もないという結果になります。中国の学生数が実際に増加していることと、韓国からの学生数が激減していることが、この割合の差となりました。

さらに3位以下のデータからもおもしろい事実が見えてきます。韓国からの学生の減少ぶりは驚くほど急激なものですが、そんな中にあって台湾からの学生数は今も昔もあまり変化はありません。1500~2000人の間でこの10年変化がないのです。台湾の学生が日本に来たがる理由は、純粋に勉学のためということが多いからでしょうか。ワーキンクグホリデービザで来る短期生もほとんどは台湾からですから、他の国とは異なり、根本に純粋な興味を持っていることが想像できます。

もうひとつ、新たにネパールが登場します。今はまだ割合的には10%にも達していませんが、ここ数年で堂々3位です。しかし3位なのに10%もない・・・? そうです、今は1位の中国が36.8%、2位のベトナムが33.2%なのです。この2ヵ国だけで70%を占めています。教科書の付録の意味説明にベトナム語が登場するのももっともだったのです。

まとめ

付録内容の変化ひとつに驚かされ、国際情勢がみえてくる日本語の教科書は、他にも興味深いポイントがたくさんあります。中味に目をやればさらにたくさんの変化に気がつきます。たとえば、いかにもまじめ一辺倒だった読解の教科書がだんだんとこなれてきて、日本社会のいかにもステレオタイプな見方ではない切り口で書かれるようになるなどです。文科省の作る学校教育用の教科書と違い、変化に対応するのが非常に早く、そして自由だからという理由からでしょうか。

一般の人にはなかなか出回らないものではありますが、国際情勢を考えるヒントが隠れており、日本の世相がわかる読み物としてもおすすめできます。外国人向けのものですから決して難しすぎませんし。いやいや、想像以上に難しいという声も上がるかもしれませんね。それはそれで自分の日本語力を疑い、見直すいい機会になるでしょうね。

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