知り合いから、「外国人の技能実習生が職場にいる」という話を聞くことはありませんか?
まだ日本語も不十分ながら頑張っているという話を聞くと、日本語教師、またはそれを目指している人であれば、何か手伝えることはないかと思ってしまいます。
日本で生活する様々な外国人のうち、今回は技能実習生に焦点を当て、日本語教育がどう必要とされているのかについてお伝えします。
技能実習生が注目される理由
例えば介護職を例にとると、いっとき話題になった「EPA(経済連携協定)によるビザ」で長期滞在を行うには、介護福祉士という専門的な資格を取らなければなりません。資格取得にあたっては政府からのサポートがありましたが、日本語での専門的な試験に合格することは簡単ではありませんでした。
また自国では看護師などの資格や経験がある人たちなので、実際に合格できたとしても、仕事内容に食い違いが生じ帰国してしまうという問題もありました。
また、就労ビザのひとつとして「介護ビザ」が新しく加わりましたが、これも介護福祉士の資格が必須要件です。まずは留学ビザで来日し、日本の養成機関(専門学校や短大など)で介護の勉強を進めながら資格を取得する必要があります。さらにそれ以前に日本語学校で日本語を勉強する場合もあり得ます。長い期間と莫大な学費を費やすことは、外国人にとって大きな負担です。
しかし技能実習生であれば、働きながら日本語を勉強し実務経験を身につけることができます。実習生という立場で技術を学んでいけるので、「思っていた仕事と違う」といったミスマッチングが起こる可能性はほとんどありません。そして最長で5年滞在することが可能です。
技能実習制度が本格化し、実習生が増える可能性あり
平成29年11月に厚生労働省と法務省が共管する「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」が施行されました。
厚生労働省からの発表の中で注目すべき点は3つあります。
- 技能実習生受け入れに当たって重要な役割を担う監理団体を許可制で認定すること
- 実習期間が延長され、3年から5年になったこと
- 身近でかつ人材不足が問題とされている「介護」が技能実習職種に加えられたこと
監理団体が実習内容を監理しサポートしていくので、技能実習生がやりがいを感じられる実習内容が確実に実施されていくことになるでしょう。
また期間が延長されたことは、実習生と受け入れ機関双方にとってより魅力ある制度になったともいえます。さらに職種に介護が加わったことで、来日する実習生の幅は広がり、希望者が増えることも予想されます。
日本語力を身に付けることの必要性
実習生の受け入れが進むこと、監理団体が実習内容を監理していくことで、技能実習生への日本語教育はどう進んでいくのでしょうか?どの程度重要視されていくのでしょうか?
技能実習制度は、人材の確保のためではなく技術移転が目的です。そのためには単純な仕事をさせるのではなく、きちんとした実習段階を踏み、内容のレベルアップを図りながら教えていく必要があります。
しかし、受け入れ機関側にその意図があっても、日本語力が不十分なままでは本来の目標に到達することはできません。また在留資格(ビザ)という実際的な問題もあります。
実習1年から2、3年、そして4、5年と進むためには、1号から2号そして3号へと在留資格を変更していくことになります。その資格変更のためには、実技試験合格と共に日本語能力の証明が必要で、日本語能力検定合格がその方法・目安となります。
つまり、ある程度の時間をかけて高い技術を身に付けるためには、実習生がN3を取ることは必要不可欠なことなのです。
現実的な問題としてN3取得は難しい
下記の表にある通り、技能実習2号つまり2、3年目への移行対象職種を見ると、いずれも人材不足が懸念される職種です。
実習とはいえ役立つ人材として期待される姿が想像されます。実際に技能実習生に日本語を教えたことがありますが、週に一度の日本語教室にも関わらず、仕事が優先され欠席することは多々ありました。実習生にとっては残業代が出る仕事の方が魅力だったようです。
参考URL:厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/0000185058.pdf
単純労働であっても、貴重な働き手として期待される状況の中で日本語を勉強することは簡単ではありません。
在日期間中にさらに力をつけ、N3に合格することは実際問題として難しいのではないでしょうか。
ましてや漢字圏でない国からの実習生であればなおさらです。制度的に5年に延長されても、日本語力が追いつかなければ滞在期間を延ばしていくことは不可能なのです。
まとめ
新しい技能実習生受け入れに関する制度がスタートし、監理団体が正しく機能すれば、当然日本語教育にも力を入れることになります。来日後の日本語教育内容の見直しもされるでしょうし、N3取得のための道筋の考察が真剣に取り組まれることになるでしょう。実際にそういった形での日本語教育サポートを考える監理団体も出てきています。
日本語学校以外の新しい職場のひとつとして、今後、技能実習生を対象とした日本語教室が増えていくかもしれませんね。