日本語教師になる前に社会人経験はあった方がよいか?

一般の会社では、新入社員から中堅社員、そして管理職に至るまでの道筋が暗黙のうちに敷かれているように思えます。

会社のレールに乗って進んでいくことが一番だと自らに言い聞かせ、時を重ねていく。その道中に窮屈さを感じ、転職を考えることはきっと誰しも経験することでしょう。

日本語教師業界では、そのような人たちが社会人経験を積んでから教師を目指す、つまり転職組も多いです。今回は、社会人経験が日本語教師の仕事にとってどう生かされるかについて、解説します。

学生側から見た社会人経験のある先生のよさ

日本の会社の実情がわかる

日本の会社で働き海外駐在の経験もあるA先生は、国際的に活躍されていた経験から、世界の中の日本のポジションへの見識は深く、広く、興味深いものがあります。仕事の中で外国人に接してきたことで、彼らの日本人に対する言い分にも慣れています。学生の不十分な言葉の裏にある思いを、そういった経験から想像し、的確に捉えることができます

学校の中でもレベルによって学生の雰囲気や求めるものは変わります。上級の学生であれば、日本の生活に慣れ、日本社会を客観的に見つめ、外国でひとり暮らしをしてきている自分への自信を得て、ひとことでいえば大人になっています。外国での生活は人をここまで変えるのかと驚くほどに顔つきの変わる学生もいます。

そして学生が考えるのは将来のこと。日本で大学や大学院、専門学校に入るのか、就職するのか、帰国するのか。そんな迷いを頭の隅に置きながら授業を受けています。授業に使う読解のテキストも日本社会や会社を扱うものになります。社会人経験のない先生ではこういったテキストを、より興味深く膨らませるのには限界があります。

就職の面接試験時の心構えやビジネスマナーを教われる

就職の面接試験に対し、進路指導担当がいてもひとりひとりの学生にまで細かい指導ができない場合があります。また技術的な指導はできてもそれ以外の心構えまでは表面的な指導にとどまることが多いこともあります。その不足部分を補える、会社側が求める社員像を経験から伝えられる先生は貴重です。

また、A先生は長年の会社員生活の中で身につけたビジネスマナー、たとえば名刺交換や挨拶などはお手のものです。授業で教えるこういったマナーに触れる必要があるときなどは、会社員経験のない先生から頼りにされます。

会社員の厳しさを少し知ることができる

社会人経験の中で身につけたものは授業の中に滲み出ます。問題を見つけ迅速に解決する、秩序を守って優先順位を瞬時に判断できるA先生への信頼は、特に上級のさらに上の超級の学生から厚いです。学生は先生の態度からその人のバックグラウンドを感じ取り、日本社会、社会人としての態度を学んでいます。

学校側から見た社会人経験のある先生のよさ

上記の学生側へのメリットはそのまま学校側のメリットでもあるのですが、それ以外の部分でも役立つことがあります。それは社会人経験そのもので得たことが学校運営をスムーズにするからです。

問題解決への処し方が速く、そして確実

仕事をすれば何か問題が起きるのは当たり前。それを解決し、まるく収めつつ、得るものは得る。このことの繰り返しです。社会人として仕事をしていると、自ずと、目の前のことに対処しつつも広い視野で全体を眺めることの大切さを知ることになります。そうして得た経験から、何か問題が起こったときでも対応が迅速です。

どこに着目し、どこに連絡し、何を優先に解決していくか、そういった判断が速いのです。秩序の大切さもわかっていますから、たとえ自分の方が年上であっても専任講師を立てて動いた方が結果的にスムーズに処理されるとの判断が働き、立場を超えることはそうそうしません。した方がよいと判断したときでも、事前に報告するという癖が身についています。年齢の若い専任講師にとっては、報告・連絡・相談を忘れない頼りになる存在が社会人経験のある非常勤講師です。

責任範囲への線引きを自分でできる

責任範囲についてもきちんと理解しています。「社会人経験がなくても大人ですからできますよ」との声がどこかから挙がるかもしれません。が、敢えて書かせていただくと、日本語教師の多くはこの線引きがうまくできず、あれもこれもと抱え込んでしまい、結果的にその重さに耐えられなくなり体調を壊すということが実は少なくないのです

学期の途中で体調不良で辞められるのは学校にとっても損失です。その前に相談してください、と言いたいくらいなのです。自分が潰れないために事前に重荷を下ろしておくことが、学校側からしても望ましい対応であるとの判断は案外難しいことなのです。このような考え方も実は社会人経験から来ています。

学校運営への苦言をときに呈してくれる

公教育ではなく私塾的でもある日本語学校は、ときに社会の常識とは離れた部分も持ち合わせます。親元から離れ自由に過ごす学生たちの生活面をサポートする必要もあるので、時間外に起こった問題に対処せざるを得ないときもあるからです。

社会常識をふまえて、当然のこととして出される苦言はときに大事な気づきになります。学校運営を長く存続していくためには健全性は大切なことですから、そういった苦言を無視することは危険でもあります。

まとめ

社会人経験をした後に日本語教師になった私からの手前みそな意見で恐縮ですが、どこかご参考になれば幸いです。書きながら、会社を通して社会全体の経済活動に関わり、生きがいや貢献について考え、人間関係をうまく結ぶことの大切さと共にそのテクニックを身につけるトレーニングをしてきたとを再確認しました。

社会人経験を持って日本語教師になることは、学生にとっても、学校にとっても、たくさんのメリットがあります。転職を考えている皆さま、どうぞ自信を持って日本語教育の世界にいらしてください。

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