日本語教育の中での漢字をめぐる問題あれこれ

日本語学校の進学指導担当の先生が、大学や大学院進学を望む中国の学生に対して言っています。「漢字がわかるから大丈夫、と進学を甘く見ている」。確かに読み方や書き方が違っても、漢字そのものの意味は大きく変わらないので、かなり有利です。そのためか、大学や大学院を望む学生は圧倒的に中国人が多いですね。

ここでは、日本語学校を卒業後の進路と漢字についてお話しいたします。

国別、進学先の違い

日本語教育振興協会の資料に、日本語教育機関を卒業した後の進路に関するデータがあります。進学、帰国、就職などの中で一番多いものは進学です。学生全体の進学率は平成27年度で77.1%と高いものになっています。その進学先の内訳は国によって若干異なります。在籍割合が全学生の約37%を占める中国人学生と約33%を占めるベトナム人学生に絞って比べてみましょう。

  • 中国人学生は全進学先の約61%が大学、大学院進学である。
  • ベトナム人学生の大学、大学院進学の割合は約20%で、多い進学先は専修学校専門課程いわゆる専門学校で、その割合は約78%を占める。

大学や大学院進学を希望する中国人学生にその志望理由を尋ねると、「国では自分のしたい勉強ができなかったから」「国では行きたかった大学を落ちたから」という言葉をよく聞きます。自分の国で思うような進学ができなかった学生が、日本で大学や大学院に進み、リベンジを果たそうとする姿が見られます。日本語という壁を乗り越え、進学を目指す学生の真面目さには頭が下がります。

一方、ベトナム人学生と話をするとよく聞かれるのが「漢字、難しいねぇ」という台詞。まじめな学生ほどその難しさを嘆き、必死で練習し覚えようと努力しています。見慣れるまでは漢字は記号のようにしか見えず、「車」と「東」が違うものと認識できないと言われる学生たちが、読み方や書き方を覚え、大学、大学院へ進学するにはかなりの努力を要することでしょう。私たち日本人が記号にしか見えない言語を一から勉強し、1年から2年の後に大学院や大学に進学することを想像してみてください。

勉強に向かう姿勢、文法や読解などのコツをつかむ速さなどから、その学生の勉強に関するもともとの素質が見えます。もともとできる人は外国でもできる、これは当然のことでしょうが、日本での進学の場合は漢字という大きな壁があり、国によって漢字の知識に差があり、進学先だけからその学生の優秀さを判断できない部分があります。

漢字の勉強の難しさ

日本語では漢字の勉強が欠かせません。日々さまざまな小テストを課しますが、毎回満点の学生がいる一方で、毎回0点に近い学生がいます。これは日本の小学校などで顕著な例ですが、やはり日本で初めて漢字を目にしたという留学生の点数は低めです。その一方ほとんど勉強していなくても毎回そこそこの点がとれるのは中国人、台湾人の学生です。

では、そういった国の学生が圧倒的に有利かというと、そうとも言い切れない部分があります。中国で習う漢字は今や簡体字と呼ばれる簡略化された形になっており、台湾で習う漢字はそれよりも日本漢字に近い繁体字であるものの、完全に違う書き方をするものがあります。その違いをひとつひとつ意識し、直すのもそれはそれで難しさがあります。

それでもなお、中国人や台湾人が大学、大学院進学に有利なわけは漢字は表意文字だからです。正しく読めなくても、漢字の意味を拾うだけで読解文の意味がおおまかにとれる。これはなんといっても大きな優位点です。その差が、進学先の違いにも影響を及ぼしているのではないでしょうか。

日本語学校側の対策

漢字ができない学生に対して、学校側も工夫をしています。補講という形で漢字の勉強時間を設ける場合もあれば、選択授業の形で漢字クラスを作る場合もあります。が、前者の場合、補講をとってまで学習する生徒が実際には少ないという事情があります。生活費や学費などを捻出するためのアルバイトが必須である場合は、学生側に時間の余裕がありません。希望者が集まらず継続的な実現には至らないことが多いようです。学生自身が漢字は教わるものでなく覚えるしかないと自覚しているということもあるでしょう。

後者の場合も同様で、進学希望の学生は、漢字だけのクラスより日本語能力検定対策クラスを選択する場合が多いです。大学、大学院進学の場合は、N1合格であることが望まれるからです。

まとめ

漢字が書かれたTシャツがお土産として人気があるように、アルファベット文化を持つ国々では、漢字は興味深いもの、いかにも異国を感じるおしゃれなもののようです。漢字が日本文化のひとつとして捉えられているのですね。

そういった学生は、ものの形から形成された漢字には特に興味を示しますが、一方で漢字の量の多さに愕然とし、漢字の勉強をあきらめてしまう者もいます。中には独自で考えたイメージで覚えようと工夫や努力をする学生もいて、大学院に進学していった学生であれば、ひとつの研究テーマになり得る?と期待もします。

このように漢字は、外国人にとっては悩み深い問題です。でも最近の日本人にとってもあやしくなっていますね。「日本人に漢字のことを聞いたら『僕にもわからない』って言われた」と愚痴をこぼす学生もいますよ(笑)。

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