日本語教師の難しさでもあり、おもしろさでもある「クラスコントロール」

「クラスコントロールがうまくいかない」「学生側からの反抗的な態度がみえる」
ベテランの先生でもときに悩む問題です。

授業中に、翻訳版(学生の母国語)の文法書を机の上に出されたという事件(?)が起こったと想定して考えてみましょう。
さてこの場合、先生はどうすべきでしょうか。

  1. 即刻しまうよう注意する
  2. 注意はしないが、冷たく無視する
  3. 興味深げにのぞき、皆に練習問題をさせているときなどに見せてもらう

私自身は3です。が、1や2の先生もけっこういらっしゃいます。「授業中は私の授業に集中しなさい」というわけですね。どちらが正解なのでしょうか。

先生側の思い

授業準備をしっかりしてきた、だからしっかり成果を感じたい、マナーとして先生の授業に集中すべきだ。そんな思いがあると、翻訳版の文法書を机の上に置かれるという想定外の事態が悪いものとしか思えません。またその学生の日頃の授業態度によっては、反抗的としか思えないこともあります。

その結果、1または2といった態度になります。

学生側の思い

授業の大事さはわかっている、でも先生の説明だけでは(日本語の力がまだ十分でなく)理解できない、だから文法書に頼る、だって授業を理解したいから、その目的は間違っていないはず。そう考えていたときに一方的に叱られ、すぐにしまうよう言われると、なんて融通のきかない先生なんだと考えます。「もっとわかる授業をしてくれ」といったクレームにつながることもあります。

その結果、1または2といった態度は逆効果になります。

先生側の考えの分析または想像

子供のときからじっくり時間をかけて、国語として日本語を勉強してきた私たちは、ついそのときの感覚で授業も考えてしまいがちです。教師主導で、学生はただそれに従ってついてくればいいのだと思いがちです。これが学生からは上から目線のように見えるかもしれませんが、それもまた違います。つまり、無意識に自分たちが受けてきた教育をなぞっているだけの場合が多々あります。

また日本語を教えるだけでなく、日本のやり方も伝えようという気持ちもあります。日本社会で困らないように教えるという使命感のもと、敢えて厳しくするという考えも理解できます。

学生の状況から考慮すべきと思われること

学生には時間がない

生活費と学費を稼ぐためにアルバイトで忙しい学生もいます。大学または大学院に合格しなければならないというミッションのもと、ビザの残り期間を考えながら日本語を早く身につけたいと焦っている学生もいます。その日の文法項目のところを翻訳版で探し、先生の説明と合わせ理解を確実にしようとするのは、かえって熱心ともとれます。

相手は大人である

子供ではない学生たちは、以下のことを考え判断する力があります。

私たちが英語を習うときに、英語に長けた日本人教師に習う場合と、日本語は十分ではないが英語を母語とする英語教師に習う場合とどちらを望むでしょうか。文法も何もわからないときには習い始めは日本人に、わかってきたら英語の母国語話者にというのが一般的な考えでしょう。母国語話者がいつでもベストではありません。

内容によると判断する学生もいます。会話であればよい発音、正しいたくさんの表現を知りたいので、母国語話者を望みます。しかし文法であれば、母国語との違いをわかった上で説明してある文法書だからこそ理解できる部分があります。

つまりレベルによって、内容によって一長一短があるのです。小学校で国語として日本語を習ったときにはそんな分け方はもちろんできず、ただ従うだけでした。しかし相手は、母国語での知識を基として日本語を学習する学生です。上記のような判断ができる大人でもあります。日本語を効率よく習得した後の次なる目標が明確な学生ほど、効率よいやり方をそれぞれがする自由もあってよいかと考えます。

まとめ

以上、それぞれの理由や思いを書いてみましたが、皆さんはどう思われましたか。

日本人だけの集団であれば、小さな判断(母国語で書かれた文法書を堂々と机の上に出してよいかどうか)の結果で大きな差異が生じることはそうそうありません。しかし外国人にはこういった当たり前は通用しません。その度にどうしてそのような判断を取るのか考える機会になります。これを面白いと思える人であればいいですが、悪いと決めつけ一方的にこちらのやり方を押し付けようとすると、学生がそれに従わなかった場合、非常に疲れます。さらにクラスコントロールができていないと自分を責めることになり、追い打ちをかけられます。

経験からいえば、きちんと学生の思いを想像し理解を示し、その上で譲れないところがあれば譲れない理由をきちんと説明するところまですれば、問題が起こることは滅多にありません。人対人ですから、「こちら(学生)の立場や考えを理解するよう誠意を持って努めてくれた」と伝われば、先生という立場を尊重してくれます。そのくらいの大人の考え方ができる学生たちです(「いちいち面倒くさい!」という先生たちの嘆きにも大いに共感できるのですが)。

しかし、だからこそこの仕事は飽きないともいえます。日本語教師の魅力、モチベーションのひとつともいえます。こういったひとつひとつが実はとても貴重な学びだったと後々気がつくことも多いのです。

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