日本語教師養成講座を卒業した先生は使えない?

驚くことを耳にしました。「日本語教師養成講座出身の先生は正直使えない」というものです。
420時間以上もかけて講座を受けたのに、それが役に立たないと思われていることもある。
お金と時間を費やした先生にとってみれば、「あなたは何もわかっていない!」と言い返したくなるほどの一言です。
私自身は、日本語教育能力検定合格の資格を持った日本語教師ですが、日本語教育を実践的に教わることのできる養成講座は、機会があれば短期でも通ってみたいと考えていました。
ところが、かえって評価しないという声もあるのです。なぜなのでしょう。

 

学習者のニーズ、期間を考慮することの大切さ

多くの日本語教師養成講座で教わることは、文法を一から教えるやり方です。
語彙を増やし、表現を増やし、練習を重ねていくその方法を教わります。日本語教師として右も左もわからない状況でこの講座を受けた人は、その講座で教わった通りにすれば間違いはないのだと思うのも当然だろうと思います。

しかし、ここで気をつけなければいけないのは、学習者のニーズと学習にかけられる時間です。

留学ビザを得て、日本語学校に毎日通い、日本語能力検定に合格することを目標とする留学生であれば、丁寧に文法を教えていくことは必要であり、時間も十分にあります。
しかし、そうでない学習者もいます。そのような場合、同じ教授法ではニーズに合っていないばかりでなく、学習者本人にとっても得るものが少ないことになります。

学習者のニーズに応え、実生活で活かせるものを提供する。この基本は常に忘れてはいけません。

 

立場によるニーズの違い

それぞれのニーズの違いを改めて確認してみましょう。

日本語学校の留学生の場合

彼らにとって日本語学校の存在意義そのものは、大学などの上級学校へ進学するための日本語力を身につけることです。
進学後は日本人と同じ教科書を使い、専門的な勉強をしていくことを考えれば、読んで理解するためにも、正しい文法を詳しく知っておく必要があります。
また日本語能力試験のN1やN2に合格することは日本語能力の証明として進学の際に有効となるため、この試験に沿った授業をする必要があります。

技能実習生の場合

自国で半年間、来日後に1ヶ月間の日本語教育を受けた後は企業配属先で仕事をしていく人たちです。
仕事が始まれば、日本語教育に時間を割くことは難しくなります。
配属先によっては週1程度の割合で日本語教育をしている場合もありますが、非常に稀でしょう。
実際には、仕事の中で日本語力を身につけていくことになります。
仕事を安全に正しくこなすために必要な日本語力を身につけたい、これが一番のニーズでしょう。
技能を身につけるためのビザである以上、より高いレベルの仕事を任せてもらえるよう、日本人との意思疎通、連絡、報告などができる力が必要になります。詳しすぎる文法知識は要りません。

日本で生活している外国人の場合

彼らのニーズは実にさまざまです。今置かれている状況の中で不足を感じて、日本語を勉強したいと考えているので、ビジネスマン、主婦、学校に通う子供などそれぞれの立場の中で必要な語彙や教材を選ぶ必要があります。
それと共に、日本で生活しているからこそ直面する、文化の違いなどに触れられる内容であるとよいでしょう。

 

ニーズをふまえた重点を置くべき能力の違い


言語能力は大きく3つに分けられます。

  • 言語構造的能力…語彙・文法・発音・文字・表記について正しく使う
  • 社会言語能力…相手との関係や場面に応じて適切に使い分ける
  • 語用能力…ことばを組み立て、ことばのやりとりを通して役割や目的を理解する

日本語学校の留学生は、言語構造的能力を身につけることに重きを置くべきでしょう。
目標を受験に合格することを前提とし、能力を示す手段が問題を読んで書くことによるものである以上、語彙、文法、表記を正しく詳しく知る必要性は当然高くなります。

技能実習生の場合はどうでしょう。
もちろん日報などで読むことや書くことは多少求められますが、技能を習いに来るという立場を考えれば、上司との関係の中で正しい言葉を使えることが一番大事なのではないでしょうか。
つまり社会言語能力が重要ですね。また、実際に質問したり相談したりの機会が多いことを考えると、語用能力はさらに必要であることが想像できます。

日本で生活している外国人は、技能実習生よりもさらに多様な場面に遭遇する機会が多くあります。いろいろな場で相手と自分との関係の違いによって言葉を使い分ける必要性は、技能実習生よりさらに高いでしょう。どういった使い分けが必要なのかを文化的違いを含めて知ることもできれば、学習者の満足は非常に高いものになるでしょう。

 

まとめ

日本語教師養成講座を卒業した先生方は非常にまじめです。教わったことをきちんと実践できるか、わかりやすく学生を導いていけるか、毎回毎回の授業に心を砕いてらっしゃいます。
ただ冒頭で紹介したショッキングな言葉から想像して、一つ懸念を挙げます。それは、習ったことを自分のものにすることに一生懸命になるあまり、目の前の学習者を“置いてけぼり”にしてしまうことがあるのではないか、ということです。
「自分は教わった通りにやっている、なのにわからないのは学習者が悪い」
そういったことを平気で口にする先生もいらっしゃいます。

「日本語教師養成講座出身の先生は正直使えない」といった言葉自体は正しいものではありません。
しかし、自己満足に陥らないことや、一つのやり方にこだわらないことという基本を思い出す、よいきっかけになりました。多様な学習者に対応できる日本語教師への道のりは、まだまだ遠いですね。

 

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