3年から5年、5年から10年と、技能実習生の滞在期間延長のニュースが流れています。
「実習とは名ばかり。結局は人手不足のための人材確保でしょ」とも揶揄されていますが、技能実習生として働く彼らからすれば「それで十分」という声も聞こえます。
技能実習生に関する新聞やネットのニュースでは、憂慮するべき問題はないかと探し回り、ことさら大きく取り上げ伝えています。
しかし、実際の現場に多少なりとも関係する身としては、そういった報道もまた記者の飯のタネのようにしか見えないという面も正直あります。
ここでは、実際の現場を目にし、拾った声をお伝えします。
技能実習生がいる現場の様子
先日、ある工場見学ツアーに参加したときのことです。
ずらりと並ぶタイムカードの中にカタカナの名前を見つけました。
資本金が億単位の大企業でしたが、一地方の工場であるそこの従業員数はあまり多くありません。
それでも10人ほどの外国人が在籍していて驚きました。
事業内容の説明を聞き、一通りの見学を終えた後の質問コーナーで早速、彼らのことを尋ねました。
外国人従業員たちはやはり技能実習で受け入れているとのこと。
「人手不足なので」という話もありました。
確かに日本人の従業員は年齢が高めで、外国人の実習生は皆、若者でした。
力が要ると思われる製造工程には若い男性の実習生が、瞬間の判断とスピードが要求される梱包工程には若い女性の実習生が配置されていました。適材適所ということなのでしょう。
複数の実習生を受け入れ、必要な人材として配属されているのを目の当たりにしました。
人材不足のために倒産する企業があるというニュースもよく耳にします。
企業にとって技能実習制度は、雇う側の優位な立場を保ちつつ、実は助けられているのです。
技能実習生なしでは企業の存続もあやういといった現実は、日本国内に数多くあるのではと思われます。
技能実習生の声
日本語教師として技能実習生に毎週土曜日、日本語を教えていたことがあります。
彼らはとある金属関連の大企業の技能実習生です。
そのときの会話を一問一答でご紹介します。
―どれくらいの期間、日本に滞在しますか?
2年です。初めは1年、あとでもう1年延ばします。
―3年ではないのですか?
いいえ、みんな2年で帰ります。
3年にまで延長、5年にまで延長になっている技能実習生ビザですが、その期間いっぱい受け入れられるとは限らないようです。
長いことによる弊害を考えての期間設定なのでしょうか。
―あれ、今日は休みですか?
仕事です。休日出勤です。
―それは大変ですね。休みがほしくありませんか?
いいえ、仕事の方がいいです。お金がもらえますし、高額ですから。
―残業もありますか?
はい、きちんとお金がもらえるから嬉しいです。
日本語教師の立場からすれば、週に1度の貴重な学習時間なので休まず来てほしいですが、働けばお金になる仕事の方が彼らにとってよりよいことなのです。
技能実習生は短期間でしっかり稼げる手段として考えられていることが想像できます。
―もうすぐ帰国ですね。もっと日本で働きたくありませんか?
いいえ、国へ帰って家族に会えるので嬉しいです。早く会いたいです。
専門技能や長い経験がなくても比較的簡単に日本で仕事ができる手段を考えた場合、留学も挙げられます。
留学ビザは学費を払う必要がありますし、労働時間は週に28時間以内という制限があります。
しかし留学ビザは、配偶者や子供の呼び寄せが可能なのです。
一方、技能実習生は家族の呼び寄せはできません。
この点が人道的ではないという意見もありますが、彼らの言葉から、今の境遇を自ら選び、納得して過ごしていることがうかがえます。
技能実習生か留学か、迷う大学生
いわゆる新興国とよばれる国の優秀な学生から、日本に行きたいという相談を受けました。
初めは日本語学校に行きたいと話していましたが、かかる学費、アルバイト時間の制限、高い生活費などを考え、迷っているようです。
しかし、技能実習生はその制度の特性上、自国でも同じような職種の仕事経験があることが前提となっています。
日本の最低賃金以上が保証され、留学のように時間制限もなくお金が稼げる技能実習が魅力であっても、大学生である彼には技能実習生の条件は該当しません。
その話をすると、どれくらい実務経験があればいいのか、日本語能力はどれくらい必要か、などさらに質問してきました。
新興国といわれる国での大卒資格の学生であっても、なんとかして来日し仕事をしたいという意欲は高いようです。
圧倒的な給料の違いは、目がくらむほどの魅力があります。
一般工職ワーカーの賃金比較
「目がくらむほど」と書きましたが、実際にどれほどの違いがあるのか、JETRO (ジェトロ) からの資料をもとにご紹介します。
日本語学校に来ている学生、技能実習生の出身国のみを抜粋しました。
調査実施期間は2017年12月から2018年2月です。(参照URL:JETRO)
- 日本(東京):2406
- スウェーデン(ストックホルム):3685
- 香港:1992
- 韓国(ソウル):1879
- 台湾(台北):1112
- 中国(北京):746
- モンゴル(ウランバートル):338
- インドネシア(ジャカルタ):324
- フィリピン(マニラ):237
- ベトナム(ホーチミン):234
- ミャンマー(ヤンゴン):135
- バングラデシュ(ダッカ):101
※単位=米ドル
簡単に100をかけ日本円に換算し、バングラデシュで計算してみると1万円ほどの給料が、日本では24万円になります。
課長クラスの給料でも6万円であることから考えると、日本に行けば一足飛びに課長以上の高給取りになれます。
思った以上に生活費がかかり、数万円しか残らなかったとしても十分と考えるだけの、圧倒的賃金格差があります。
まとめ
一部のメディアでは評判の悪いのが技能実習制度です。
「家族を呼び寄せることもできず、働かせるだけ働かせて短期で帰す横暴な制度」
と話す専門学校の就職担当職員の言葉を耳にしたこともあります。
しかし本当にそうでしょうか。
受け入れ側の企業の人材不足を解消でき、当人たちも自らの選択の上で来日している、双方ともに納得、いわゆる“Win-Win”の制度ではないでしょうか。
また日本人が考えるほどにアジアの人たちは日本に長く住むことを望んではいません。
それぞれ自国への愛国心は十二分にあります。若者であれば、いっとき家族から離れ異国での生活を経験したいと自ら望んでやって来ています。
「短期でいい、長期はこちらも望んではいない」といった正直な思いからも感じられます。
あとは実際の現場が誠実に対応すること、これに尽きます。
確かに、3年から5年、10年と滞在許可期間は延ばされつつありますが、企業側も優良だと認められなければ、いくら人材として確保したくても期間の延長ができないようになっています。
つまり実習計画を正しく進め、技術の習得がされていなければ長い期間働いてもらうこともできないのです。
双方にとってメリットのある技能実習制度は、今後もますます伸びていくのではないでしょうか。
そしてたとえ短期間であっても日本で快適に生活できるよう、日本語を学ぶ、学ばせる必要性は今後ますます増していくのではと予想できます。